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キャラ物のグッズ愛もしくは哀 【エッセイ】

リラックマが好きだ。あの色、あのフォルム。可愛く見せたいとかそういうぶりっ子心を一切感じさせない、自然体で媚びてない雰囲気も好きだ。
 三月に一ヶ月間、東京にインターンシップに行ったときも、リラックマにはお世話になった。勝手の分からない一人暮らし。企業の厳しさと、東京砂漠の人恋しさ。それらがごたまぜになって、欝ではないがなんとなく沈んでいたあの頃。リラックマの「だららん日和」という本を読んで、明日も頑張ろうと癒されたものだ。視覚的にも精神的にも大好き。その愛は、数年来の恋人にも勝るとも劣らない……ええい! 語るとぺらっぽくなるわい。とにかく可愛い。好きだ。理由なんてない。好きに理由があればあるほど、好きは薄っぺらくなる。そうだろう?
 そんな折。バイト先のコンビニで「リラックマフェア」なるものが行われた。リラックマ専用のブースを設けて、可愛いクマグッズを大々的に売り出したのだ。リラックマファンの僕は即座に、ソフビマスコット、カップタオル、キーメット、ストラップ、etc……と全種類のグッズを買い込み、生活のあらゆる場所にクマをちらつかせては顔をふにゃつかせた。幸せだ。こんないいフェアをやるなんて、うちのコンビニもまだまだ捨てたもんじゃないなと思った。
 そう、僕が買ったまではよかった。
 2ヵ月後、大問題が生じた。このリラックマグッズ、待てど暮らせどいっこうに売れないのである。これまでの売り上げは全体のおよそ2割と言ったところか。悲しそうに埃をかぶるのは、売れ残った8割のクマたち。
 これには僕も驚いた。自分が愛するものを、みなも愛してくれるだろうなんていう青臭い思惑など一切なかったが、この仕打ちはクマが可哀相だと思った。なんで!? どうして!? 僕はレジで作業をしながら、クマのほうなんて見向きもしない客に向かって心のシャウトを飛ばしていた。これじゃああんまりだよお客さん。
 リラックマが売れなかったことによる、店の不利益についてはどうでもよかった。そもそもうちのコンビニがどうなろうと知ったこっちゃない。問題は金じゃない。売れ残ったクマたちはどうなるかということ。この一点に尽きる。
 東京近郊にある、瑣末な倉庫街。その一画で、全国各地のコンビニから届いた返品のクマの山を前につぶやく業者。「二束三文で作った商品を、一つ500円で売りつける……わずか1割でも売れりゃあ十分元がとれるってんだから、やめられねえよなあ!?」そういって醜く笑った業者は、下っ端をよびつけ、どやしつける。「後は適当に処分しちまいな!」
 そのままリサイクル業者にひきとられ、熱によってどろどろに溶かされるクマもいれば、粉砕機にかけられてコナゴナにして捨てられるクマもいる。運のいいクマでも、卸売業者にタダ同然の値段でひきとられ、町内会の祭りの的屋だとかに量り売りで売られ、クソみたいに高いクジや、サメ釣りのはずれ景品としてさばかれ、頭の悪いクソガキなどがそれを手に取り、「ママー、こんなんよりプレステ3が欲しい」などと粗末に扱われ、家の畳に打ち捨てられるように転がっては、飼い犬にガジガジにかまれ、くだかれて原型をなくすクマが関の山。僕は悲壮なクマたちの運命を想像するにつけ、発狂しかかる精神を押さえつけもがき、苦しむ。
 クマブースを再度見る。売れ残ったクマの数を数え、値段を計算する。全部売れても一万四千円。憤りで体が震える。たったイチマンヨンセンエン。1クール数万円の利益(?)をあげるためだけに、可哀相なクマをこんなに生み出したと言うのか? 百歩譲って売れたとしても、店に入る利益なんてすずめの涙ほどだ。そう言うと、頭でっかちのSVは、「ちがいます。リラックマは利益をあげるための商品ではなく、あくまで客寄せパンダなのです。利益は、リラックマをふらっと眺めに来たお客が、ついでに買うアンパンなどで回収すればいいのです」なんて言うだろうが、ちゃんちゃら可笑しい。だって客、別に増えてない。リラックマ効果で客なんか集まるか。本当にリラックマが好きな奴はグッズ屋に行くわ。可哀相なリラックマ。SVの机上の空論に振り回され、人柱になったリラックマ。いや、クマなのでクマ柱と呼ぶべきか(か、かわいい……)。
 大量に売れ残ったクマブースの前に立ちながら、僕は考える。せめて目に見えるクマたちだけでも助けてあげたい。たった一万四千円でこんなにも多くのクマを救ってあげれる。これはエゴだろうか。例えば、政情不安な国に赴き、恵まれない子供に医療支援を行う。そんなことをしても焼け石に水、と評論家は笑うかもしれない。何があっても自己責任、と首相は声明を出すかもしれない。これはエゴだろうか。けれど目の前の子供は助けられる、目の前のクマは助けられる。僕の場合は命を賭すわけではない。一万四千円だ。たったそれだけでクマがスクラップになるのを防ぎ、クマ欲のないクソガキが粗末にクマを陵辱するのを防ぎ、そして何より僕の……僕の心は満たされる。これはエゴだろうか。エゴだ……! 所詮エゴだとも……! エゴの何が悪いか! みんな大抵自分のために生きてんだろ? 自分のために仕事をし、自分のためにみんな金を使う! 大切な人に向ける親切心や愛情だってまわりまわって自分のためだ! 自分のために生きるんだ! それが自然だ! みんなそうだろう? だから僕は……
 僕はクマブースのクマを全部取ろうと、手を伸ばした。そのとき。一緒にバイトに入っていた女子高生(巨乳)が、そんな風に狂った目をした僕を見て、大いに笑った。「またやってるんスか!」。前のめりになってカラカラと笑い、背中に長く艶っぽい黒髪をしゅるしゅるはねさせる女子高生(巨乳)を見ながら、クマ全部買ってやるから乳もましてくれと切に願った。あと、頭の片隅で考えることといったら、クマのかわりに乳ってのは売春にあたるんだべかーとかそういうこと。クマのためでも誰のためでもなく、いつだって僕は自分のために金を使うし自分のために生きていくんだ。みんなそうだろう?